【17B087-088】世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)

 

 

夜のホテルの部屋で、よく納豆を食べる。
コンビニで買えるいちばんまっとうな食べ物は、
納豆だと思っているからかもしれない。

仮にいつも同じ銘柄を食べるとすれば、
納豆の美味しさを決める要素は3つ。
つまり豆(のかきまぜ)とタレとカラシ。

まずたっぷりとかきまぜ、泡々になったところに
カラシをかけて混ぜ、最後にタレをかけて
みたびよく混ぜる。これを仮に標準型としよう。

標準型から順番を変え、
豆まぜて泡々、タレかけてよく混ぜる、カラシかけてひと混ぜ。
これで味はすっかり変わる。

さらに手順を変え、タレ少し入れる、豆まぜて泡々(一層泡々)、
タレ追加と同時にカラシかけて軽くひと混ぜ。またこれで変わる。

村上春樹の小説も似たようなところがあって
(納豆と並べるのもどうかと思うが)、
出てくる要素はいつも同じ。

2つの世界、妻が出ていってしまった男、性交のない受胎、
皮剥ぎ(あるいは拷問)、行方不明の猫、手を引く女の子、
変わった喋り方をする人物、暗闇の通過、終わりのない終わり。

納豆よりはたくさんの要素(パラメータ)があるけれど。
結局のところ、出てくるのは同じ要素。
順番が変わり、設定が変わり、状況が変わる、のみ。

その、変わっているけれどちっとも変わっていないことが、
読者になにかを与える(あるいは引き出す)。
その、不易性と流行性が、世界中に愛読者を生み出す。
だから、読み終わったあと、何が書いてあったのか、
さっぱり思い出せない(だって要は同じ話なんだもの)。

何とも言えず中毒的に魅力的な村上春樹ワールドの原点が
世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』。

処女作にその作家の全ては含まれていると言う。
たしかに『風の歌を聴け』はそうだと思う。
が、ひと山越えて次のフェーズの、と言う意味では
『世界の終わりとー』が実質的な処女作にあたる。

その後に村上春樹氏がどういう物語世界を構築するか、
結果が既にわかっている今、あらためて読み返してみると、
よりくっきりと『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
を楽しめる気がする。
ちょっと読みにくいけど、読むなら今こそではないか?