虎(牛)龍未酉2.1

記録帳|+n年後のジブンが思い出せますように……

【09B144】日本辺境論(内田樹)

ここに来て、今年読んだ中でいちばん
おもしろかったかもしれない。
 

日本辺境論 (新潮新書)

日本辺境論 (新潮新書)


 
・文体、はじめての体験。
 なんていうんだろう、いきなり
 上でも下でもない目線にやってくる、
 みたいなかんじ。
 

  • 「坂をくだっている、このわずかな休息のときのシシュフォスが私を惹きつける。(・・・)彼は彼の運命に優越している。彼は彼の岩よりも強い」
  • 「この仕事はボランティアで「どぶさらい」をやっているようなものですから、行きずりのひとに懐手で「どぶさらいの手つきが悪い」とか言われたくないです。」
  • 「私がどんな質問をしても、トーブさんが、そのつどその論点はどういう時間的な幅の中で考察すべきかというスケールの吟味から入ったことです。(・・・)本来あらゆる知的活動の始点に立てられなければならないはずのものです」
  • 「縦横に奇説怪論を語り、奇中実をとらえ怪中真を掬して自ずから資すという、当今ではまったく流行らなくなった明治書生の風儀を蘇生させたい」
  • 「アメリカ人がアメリカ人であるのはかつてアメリカ人がそうであったように振舞う限りにおいてである。これが(・・・)「国民の物語」。(・・・)だからアメリカがうまく機能しなくなったら初期設定に戻せばいい。(・・・)私たちには立ち帰るべき初期設定がないのです」
  • 第一次世界大戦は(・・・)「第二次世界大戦よりも死者も被害規模も小ぶりな戦争」というふうに見えるかもしれません。けれども、第一次世界大戦はヨーロッパ人にはたぶん原爆やアウシュビッツに匹敵するほどの(もしかするとそれ以上の)精神的外傷をもたらしました。(・・・)戦場では「機械による生物の虐殺」が展開することになりました」
  • 「幕末において日本が直面していた状況は理解できたが、日露戦争後に日本が直面していた状況は理解できなかった。(・・・)先行者の立場から他国を領導することが問題になると思考停止に陥る。(・・・)そのようなことをしたら日本人はもう日本人ではなくなってしまうとでも言うかのように。」
  • 「私の行為や判断の正しさは未来においてしか実証されない(未来においても、実証されないかもしれない)。それでも自らの存在を自分がなした誓言の担保として差し出すことのできる人々だけしか、新しい世界標準を作り出すことはできない。」
  • 「なぜ国家が必要なのか、それは何のためのものなのか、という根源的な問いがついに始まらない。」
  • 「自説を形成するに至った自己史的経緯を語れる人とだけしか私たちはネゴシエーションできません。(・・・)持ち重りのする、厚みや奥行きのある「自分の意見」を持っていないからです。(・・・)自分たちが「ほんとうは何をしたいのか」を言えないのは、本質的に私たちが「狐」だからです。」
  • 「師弟関係の開始時において、「この人が師として適切であるかどうかについては吟味しない」というルールを採用していた。そういう仕方で知的なブレークスルーに対して高い開放性を確保していた。(・・・)一時的に愚鈍になることによって知性のパフォーマンスを上げることができるということを私たちが(暗黙知的に)知っているからです。」
  • 「石火之機」「啐啄之機」
  • 「呼びかけの入力があったまさにその瞬間に生成したものとして主体を定義し直す」
  • 「現代日本の国民的危機は「学ぶ」力の喪失、つまり辺境の伝統の喪失」
  • 「白川漢字学の中心になるのは「サイ」という表意要素です。「サイ」は英語のDの弧の部分を下向きにした形です」
  • 「私たちはもう漢字の原意を知りません。けれども、漢字がその起源においては、私たちの心身に直接的な力能をふるうものであったという記憶はおそらくいまだ意識の深層にとどめている。漢字というものは持ち重りのする、熱や振動をともなった、具体的な物質性を備えたものとして私たちは引受けた。」
  • 「「真名」と「仮名」という言い方自体がおかしいとは思いませんでした?」
  • 「いつだって「外来の高尚な理論=男性語」と「地場のベタな生活言語=女性語」の二項対立が反復される(・・・)その相克のダイナミズムのうちに、私たちの言語が豊饒化する契機もまた存在する。(・・・)私たちの言語を厚みのある、肌理の細かいものに仕上げてゆくことにはどなたも異論がないと思います。でもそのためには、「真名」と「仮名」が絡み合い、渾然一体となったハイブリッド言語という、もうそこを歩むのは日本語だけしかいない「進化の袋小路」をこのまま歩み続けるしかない。孤独な営為ではありますけれど、それが「余人を以っては代え難い」仕事であるなら、日本人はそれをおのれの召命として粛然と引受けるべきではないかと私は思います」
  • 「九条と自衛隊の「矛盾」という「フェイクの問題」(・・・)それによって私たちは「日本はアメリカの属国である」という事実を意識に前景化させることを回避し、かつまた政府はアメリカの軍事的同盟国として出兵させられる機会を先送りできた。」